『黒き海に紅く』

▼作者:A.feudatorius
▼発表形態:作者のホームページ
▼登場キャラクター:衣玖 妹紅 勇儀
▼ジャンル:歴史

 

いわゆる歴史東方小説です。
歴史小説には2つのパターンがあります。読者がその歴史の時代・人物を
①大体知っている
②ほとんど知らない
です。
もちろんある程度知っているなど、単純に二つに分ける事はできないでしょうが、おおまかには区別できるでしょう。
この「黒き海に紅く」はほとんどの読者にとって②に当たる筈です。なんといっても戦国時代の九州地方、しかも毛利が台頭する以前とあってはテーマにしている商業歴史小説も滅多にありません。
信長や太平洋戦争などをテーマにした小説の場合、読者にもおおまかなイメージがあるので、筆者はそれを覆し新しい歴史像を作り出すか、あえて定説を踏襲してもよいでしょう。しかし、この小説のように読者が予備知識を全く持っていない場合は、まずその時代、地域がどのような状況で、どのような人物がいるのかを読者に説明しなければいけません。しかもその説明は、もちろん小説であるので、面白くです。ましてや本作は東方二次創作です。元々読者は東方に興味があっても戦国時代の九州にはあんまり興味がありません。いきなり歴史の授業を始めてしまっては、眠くなってしまう筈です。
本作は、その関門を見事に突破しています。
本作のメイン東方キャラクターは衣玖さんと妹紅(あとちょっと勇儀)。今作の上手い所は、衣玖と妹紅がそれぞれ歴史のオリキャラと会話をすることによって、ミクロの世界観でドラマを魅せ、その中でマクロの世界観を読者に示唆している所です。そのため、歴史の授業を受けているという印象はそれほどきつくはありません。その為、読んでいて世界観に入り込めないというストレスには余り感じませんでした。ただ、それだけでは世界観の説明が足りなかったのか途中でガッツリ歴史の授業を始めるところもありました。個人的にはあの箇所はなくても本筋には余り関係ないのだから、削っても良かったのではないかとも思います。
後半の戦のシーンは、筆者の歴史知識が豊富なこともあって、かなり詳細かつ緊迫感のある描写になっています。確かに戦国の九州という取っ付きにくいテーマの小説ではありますが、戦国時代と東方が好きな人は一度読んでみてはどうでしょうか。HP公開なので、無料ですぐにでも読み始められますし。