『夢を食べる人々』(東方外国文学合同「メーティスの雫」収録作品)

▼作者:こうず
▼発表形態:同人誌

 

 文学合同の中でおそらく最も難解な作品がこれだと思います。一読した所で一体どういうことを話しているか、読者に容易に教えてくれません。そこで、元ネタを読めばあるいは分かるかもと思って、図書館に行ってチェコの劇作家、小説家のカレン・チャペックの『ロボット(R・U・R)』を借りてよんでみる事にしました。ここから何らかの読解の鍵を手に入れようとしたのですが……、本作とチャペックのロボットは話としてかなり別物だったんです。僕自身はチャペックの『ロボット』という作品を知りませんでしたが、ロボットという単語をはじめて世に出した作品というのは聞いた事がありました。チャペックのロボットは、労働をロボットに任せていくうちにロボットが反逆を始めるという、今でもよく見かける古典近未来SF作品です。映画の『A・I』やドラえもんの『ブリキの迷宮』の筋もここから生まれたのでしょう。()


 チャペックの『ロボット』はそれ自体は面白かったのですが、今作の読解にはあまり役立ちませんでした。という訳で、大人しく本文に戻ってもうちょっと考察してみましょう。本作の一番の謎は、文中で頻出する<<あなた>>と<<わたし>>という人物です。ところで、本作を読んでてすっかり忘れていたのですが、この合同誌は”東方”海外文学合同というものなので、何かしら東方要素があるはずなのです。しかし、本作では東方キャラの固有名詞は一切出てきていません。なので、この<<あなた>>と<<わたし>>は東方キャラの誰かであるはずなのです。Win版の東方キャラには確かロボットはいなかったはずです。旧作にはいたかどうかは曖昧です。なんかミサイルみたいなのがいたような気もしますけど、あれはロボットっぽくないですね。チャペックのいうロボットはアンドロイドなので、人形ロボットを指しているはずです。ロボットっぽい、ロボット的な子はいます。例えば民業の付喪神のメディですが、付喪神はロボットって感じもしませんね。よりロボットに近いのはアリスの人形、特に彼女が目指す自律起動型の人形は、おそらくチャペックのいうロボットの概念に最も近いかもしれません。一方で本文中では外の世界を表現している言葉が多くあったので、<<あなた>>と<<わたし>>というのが秘封倶楽部の二人を指しているのではないかと最初は思ったのですが、まぁ蓮子もメリーも人間でありますし、比喩的なロボットであることを示唆する表現もありません。そもそも最初のパラグラフの「<<あなた>>の口は間違いなく<<わたし>>のお尻のあなから産み出されたものであるのでし〜」というのが、説明できません。加えて9Pに「<<わたし>>培養槽を同じくした<<兄弟たち>>」といっているので、<<わたし>>は男性と考えてしまえば、ますます<<わたし>>の正体が掴めなくなるのです。


 12Pには「<<あなた>>の自慢の中折れ帽」とあります。13Pには「<<あなた>>の属する人間という種族」とあります。(<<わたし>>≠人間?)16Pには「<<あなた>>は結界の綻びを見いだす眼を持つ友人と別れ〜」とあります。28Pには「人形遣いの<<あなた>>」とあります。人形遣いというのは流石にアリスのことを指しているんじゃないですかね。


 結局のところ、<<あなた>>と<<わたし>>は両方とも特定の東方キャラのことを指しているとは思えませんでした。僕の考察の結論としては<<あなた>>というのが人間一般、そして<<わたし>>というのがロボット一般を指していると考えます。この工業化社会の中で、<<わたし>>(ロボット)が<<あなた>>(人間)に反逆し、駆逐され社会から排除されていく。そしてやがて忘れられた<<わたし>>(ロボット)は幻想入りを果たす。この話はそういう筋だったのではないでしょうかね。実際にこうず氏がどのような意図を持っていたかは分かりません。作者本人による答え合わせを是非お願いしたいところです。