『東方計劃』

▼作者:譎詐百端氏
▼発表形態:東方創想話

 

幻想郷は如何に現在の形へと姿を整えたのかという興味は一定数あるものと思われる。
なんとなれば幻想郷という箱庭こそは東方projectという作品の基礎的な設定の一つであるからそれを考察する事は作品世界を深く咀嚼する事に等しいだろう。
幻想郷は外の世界から隔離された箱庭世界である。
その中では神や妖怪や悪魔や妖精や人間が各々に領分を守りながらあるいは曖昧にしながら世界を構成している。
ところで幻想郷の成り立ちについて考えるとき幾つかの問題に直面するだろう。
即ち隔離範囲や具体的な方法などだ。
これらに関する決定的な情報は未だ不明であるから推察や想像をするという事になる。
つまり豊潤な二次創作の余地があるという事だ。
「東方計劃」という作品は僅か6.88KBというボリュームにも関わらず幻想郷成立に迫る二次創作品のつまり歴史ミステリとしての興味を存分に駆り立てる一作となっている。
幻想郷成立即ち博麗大結界による隔離は明治一七年頃とほぼ特定されている。
故に博麗大結界成立を扱う二次創作品は明治という時代を基に如何に自然に(自然とは現実世界に対する整合性)描くかという事に腐心する事だろう。
それは例えば本作で用いられる「明治17年に陸軍参謀本部の地圖課と測量課が測量局に昇進した」という設定を使用する試み等である。
この設定を用いて作者は陸軍参謀本部が関わる博麗大結界成立の可能性を示唆している。読者は存分に想像を掻き立てられるだろう。
歴史伝奇小説の肝心は提示したIFに対してあるいはあり得たかもしれぬと読者に思わせる事であるとするのならば想像を掻き立てさせた時点である意味では勝利であり成功であるのだ。そういう意味で本作品は既に成功を収めているだろう。
作品の最後に紫色のドレスの少女が登場するが、またしてもそこで想像を掻き立てられる事になる。
背後に絡むのは本当に陸軍であるのかあるいは内務省であるのではないか。いやともすれば諸外国の機関であるかもしれないなどなど。エトセトラエトセトラ。読者(あるいは私)の想像は収集のつかぬ広がりをみせ期待は無限に膨らんでいく。
しかし悲しきかな本作品は僅か6.88KBしか書かれていないのだ。
勝手に想像を広げた読者は作者を無責任だと誹るだろうがそれも致し方ない事である。
それだけ本作品が提示した可能性やIFが魅力的であり過ぎるのだ。
願わくば長編の小説として本作を楽しみたいものです。