『幼き瞳の見る夢は Re:connect』

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▼作者名/サークル名:Early Daze
▼発表形態:同人誌
▼判型:文庫版234P
▼登場キャラクター:古明地こいし
▼ジャンル:こいしちゃん

 

 

 オリキャラはこいしちゃんのごはんじゃない。 

 

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 よう。いきなりレビューに関係なさげな話から始まっちまって申し訳ねえけどさ。今日、マルちゃん正麺冷やし中華食ったんだよ。ごまだれね。乾麺で冷やし中華だぜ。冷やし中華っつったら生めんが主流だからさ、いくらマルちゃん正麺でも、って思ったんだが。いやあこれがね、結論から言うと、「もう冷やし中華はこれでいいんじゃないかな」って感じだったね。乾麺とは思えないコシ、麺の風味、滑らかさ。正直びっくりだ。
 どのくらいびっくりしたかというと、この本。『幼き瞳の見る夢は Re:connect』を読んだ後、これが枯辺くんの処女作リライトであると知った時と同じくらいびっくりした。彼は、最初からこんなに書けていたのか!
 
 内容を簡単に。
 なんの因果か地底にとっ攫われてきちまった少女「あやめ」ちゃんと、これをかっ攫ってきた小鬼「弥彦」くん。ふたりはなんやかんやあってこいしちゃんとの間に絆を作るものの、こいしちゃんは難治の流行性感冒を患っており、困ったことが起こります。サトリであるがために、自らに寄せられる想いを受け止めてしまったこいしちゃんは……、ってな感じ。
 
 こいしちゃん絡みの悲劇は、なにかと損な役回り(ソフトな表現)を演じることになる霧雨魔理沙のそれと同じように、「ああうん、そうなるよね」というお約束じみた安定感というか諦観がまず先に持たれがちだ。その様といったら、リストカッターケンイチがちょっとした失敗や行き違いから心を閉ざして手首にそっとオルファを当てる様にも似ていて、一種コミカルですらある。そういった先入観が最初に無かったわけではない。しかし、本作には求心力として強力なポイントがふたつ挙げられる。
 ひとつは「こいしが瞳を閉ざした経緯に、さとりの存在を深く食い込ませた事」。これは構成上脇役という扱いにすら甘んじていたさとりが、後半には生き残りとして話の進行役を得たことで、読む者の期待を膨らませながら徐々に明らかになっていく事実とともに、強烈な印象を残す。
 もうひとつ。「こいしの現状に対して、将来性のある解を与えた事」。瞳を閉ざすまでの物語であるから、そうなるのは当然である。これをしてバッドエンド!(あるいは当人が良いんだからいいんだよというグッドエンド)とする向きがある中、今作のこいしは前向きな逃避として、直登は無理だがトラバースならば、と瞳を閉ざしている。ここには堅実かつ現実的な取捨選択があり、得心も行くし希望も持てる。
 総じて、こいしちゃんの心理をここまで、処女作にして書けるとか、スゲー。これはもう愛ですね。愛の業ですね。
 
 さてこの本にはもう一篇、有志が書き寄せた続編が収められています(というか半分はそれだ)。こちらもまた、こいしちゃんを取り巻くこいしちゃん大好き人間とかこいしちゃん大好き妖怪とか熱意は一人前だけどイマイチ現実にかみ合ってない人たちが、精一杯空回りして、最終的に人が死にます。「手榴弾の恋」という名言を生み出しているので、要チェックだ。
 
 ところで、こいしちゃん好きな人は押し並べてこいしちゃんに食べられたい願望があるんじゃないのかな、というのが最近の持論です。いや、これはもうこいしちゃんに限った話ではないのかもしれないけれど、人としてこいしちゃんのそばにいることはできず、またこいしちゃんの抱える問題には解を与えることもできない以上、こいしちゃん大好きな人は、最終的にその食料になることを望むのではないか、彼女のために自分ができることを突き詰めていった結果が、こういう物語として結実するのではないかな、と思うのです。するとやはり、これは、これらは、愛の物語ということになります。かなり妄想入ったことを言ってしまったが、共に生きていけない以上、そうすることでしか共には在れないならば、喜んで炎に身を投げるのではないか。これがジャータカならこいしちゃんが悟りを開いてブッダとして超☆光臨するところだけど、残念ながらなー。こいしちゃんだからなー。でも美味しくいただいてくれるよ、きっと。そんなわけで、この論が正しいかどうか気になるひとは、枯辺くんに「こいしちゃんのごはんになりたいの?」と聞いてみると、答えが解るかも知れません。俺? 俺は聞かないよ。変な顔されるだけに決まってるもの。
 
 こいしちゃんに己が身を捧げたいと思う、そこのあなた! ぜひご一読ください。マルちゃん正麺冷やし中華と同等かそれ以上に、オススメです。