『サイギョウジ\ネクロファンタジア』

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▼作者名/サークル名:Tie Story
▼発表形態:同人誌
▼判型:新書172P
▼登場キャラクター:八雲紫 西行寺幽々子
▼ジャンル:百合

 

 この本、硬ぇ!
 いや、オカタイとかじゃねえ。物理的に硬い。
 紙質、表紙の質、アスペクト比からくる応力分散効果も相まって、なんだかとても硬い。
 まず持った時点で「あれ、これ板?」って思うくらい硬い。
 
 たぶんこの「硬さ」は表紙の色の白さも関係している。
 だが、どういうわけかこの「硬さ」とは裏腹に、本の内容から受ける印象はひたすらに『淡い』。左様、全体的に、本文含め、淡い印象を受けるのだ。いや、余白が多いとかって意味じゃない。ポエミーなシーンでは贅沢に紙幅を使用するけど、密度は普通だ。しかしながら物語の雰囲気も相まって、ひどく『淡い』。フォント使いもその『淡さ』を強化しているようにも思う。
 考えてみればさもありなんだ。ゆかゆゆの、出会いから「ゆゆこ」の死までを扱った物語である。ただでさえ線の細い少女が死なせたり死にかけたり死んだり死ななかったり生きたがらなかったり死んだりするんだから、淡くならないはずがない。淡白だと言っているのとは違う。ただただ『淡い』のである。濃い部分があるとしたらちょいちょい垣間見えるニンスレ成分くらいだろうか。
 
 書き出しからして、「死にたくないから、生きているだけだった」と「ゆゆこ」が吐露するものだから、厭生観に包含されていて足元がおぼつかない。さらに開始数ページにして怨霊の恨み言がだだだと並べられ、いかにもいつ転んでもおかしくないという危うさを予感させる。しかして確かに、序盤には特に理由のない押し込み居直り強盗犯「紫」が「ゆゆこ」ん家を襲い、しっちゃかめっちゃかした挙句、なぜか同居し始めてゆかゆゆちゅっちゅが始まるものだから、なんか理解がおっつかなくてああこいつら未来に生きてんなと感嘆するほかない。千何百年前の話かは解らんけど。
 
 しかし、この『淡さ』はそのままに、死んだようだった「ゆゆこ」は物語の進行とともにその生命力を増していく。『紫』との交わりによって徐々に当初の存在感希薄な少女に色が付きはじめるのだ。あたりまえの、いてあたりまえの少女として。
 よって、序盤にはなんとなく読み飛ばせていた「ゆゆこ」の自傷行為が、後半の嘔吐や刃傷沙汰には、これが実に痛々しく感ぜられるようになる。これは、「ゆゆこ」が生命(あるいは恋! とか)を主張しはじめてからの変化であるといえる。
 かくしてついに終盤。『紫』に自らの恋慕を打ち明ける段に至り、ついに「ゆゆこ」は生きた人間として輪郭をはっきりとさせ、壮絶な死を迎える。ようするに、悲恋物語として完結する……違うかな? どっしりと圧し掛かる呪いの重みを感じられるでしょう。
 
 さてここまで、ひたすらに「ゆゆこ」の側からに絞ってレビュってみたけれど、実際この物語は「ゆゆこ」と同時に「紫」もまた主人公である。そのようにして読んでみると、またいろいろ皆様ご存じの「八雲紫」に深みが増すところもあると思うので、ぜひ手に取ってその『硬さ』を確かめていただきたい。あと今気付いたけど、この本が硬いのは、俺の保管状態が悪くて湿気を吸ってしまったからかもしれない。だってほら、2012年の冬コミ2日目って雨降ってたじゃん……。うわヤベ、するとこの本は『淡い』本ということになるな……。……どうでもいいか。